SS[聖][乃梨子][瞳子] 白薔薇より愛を込めて

「新刊のネタバレ注意」ということで、続きを読むに全編入れました。


「ねえ、あれ本当だと思う?」
 乃梨子は横を歩いている薔薇の花束に話しかけた。いや、正確には薔薇の花束を持っている瞳子に、なのだが、ひとりで百本も抱え込んでいると、お互いに顔を見るのも一苦労なので、薔薇の花束に向かって話しかける格好になる。
「そんな話、祥子さまからもお姉さまからも聞いたことないけど……」
「そうよね、うちのお姉さまだって、そんなこと言ってなかったし」
 しかし、聞いた話から判断するに、由乃さまはともかく、祐巳さまや志摩子さんは、あまり妹に自慢したくなるようなものでもないし、自分からは言い出さないということもあり得なくはない。いや、自慢していいようなものでも、志摩子さんはあまり自分のことを話さない人ではあるのだけれど。
「お姉さまに……聞けないよね」
 乃梨子はため息をついた。瞳子の沈黙も、無言の肯定であろう。二人とも黙ってしまうと、歩調にあわせてビニール袋の中のドリンク剤が立てる、がちゃがちゃという音が、やけに耳に響いた。
 それにしても、あの人はいったいどういう人物なのか。知れば知るほど、あの人のことがわからなくなる。計り知れない人だ、佐藤聖という人は。乃梨子は心の中で、もうひとつ大きなため息をついた。


「親切なサンタさんがくれました、とでも言っておいてよ」
「はぁ……」
 乃梨子は釈然としないまま、前白薔薇さまで、「お姉さまのお姉さま」である佐藤聖さまから受け取ったビニール袋に視線を落とす。
 クリーム色のセーターの上に、柔らかそうな皮のコートをラフに羽織り、スリムなデニムパンツの足下には焦げ茶色のハーフブーツ。エキゾチックな顔立ちと、一見無造作に伸ばした色素の薄いセミロングの髪。黙っていればモデルと言っても通用しそうなのに。
「栄養ドリンク……」
「疲れたときにはこれがいいの」
 自信満々に胸を張る。
「ところで」
 聖さまは、乃梨子の斜め後ろで控えめに二人のやりとりを眺めていた瞳子に向かって、笑いかけた。
ごきげんよう佐藤聖さま。松平瞳子と申します」
「はい、ごきげんよう
 乃梨子は自分の受けたセクハラを思い出して、瞳子にあんなことをしたら、たとえお姉さまのお姉さまでも容赦しないぞ、と身構えた。きっと顔にも出ていたに違いない。聖さまはカラカラと笑って言った。
「そんなに怖い顔しなくても、なにもしやしないって」
乃梨子ったら、心配性なんだから」
 口ではそういいながら、瞳子の目は柔らかく乃梨子に向けられていたので、乃梨子はそれでちょっと警戒を緩めた。
「だいたいそんな美味しいことは、祐巳ちゃんの見てる前でやらないとね」
 思わずムッとすると、また聖さまにからかわれた。
「ほらまた怖い顔になってるよ」
 聖さまはまるで子供をほめる時のように、乃梨子の頭をいいこいいこと撫でた。振り払ったらまたバカにされるのがわかっていたので、やりたいようにやらせていたら、すぐに飽きたらしい。聖さまは手を止めると、みんなによろしく、と背を向けて歩き去った。そのまま去ってくれていたら平和だったのだが、そういえば、と振り返って投げかけた問いが、乃梨子瞳子を悩ませているのだ。
「二人は隠し芸、なにやるの?」




隠し芸

 隠していましたが、ぼくはゲイです。すいません、嘘です。バイです。ギタリストではありません。それはヴァイです。
 ということで、新刊ネタ。CeLiさんネタ提供ありがとう。
 新刊の感想なんかもついでに。もう瞳子との朝の出会いから頬が弛みっぱなしで、ロザリオ授受に乃梨子の嬉し泣き、三奈子さま祝復活、演劇部部長の献身的な愛情と、名場面続出でおなかいっぱい確かな満足です。
 しかし、呼び方変更ネタはもっと引っ張ると思ってたのに、瞳子はあっさりクリアしちゃった。想定していた何パターンかのうちではありましたが、本命は昔書いたSSの祐巳攻め攻めバージョンだったので、ちょっと残念。
 祐巳もずいぶんと貫禄がついてしまったけど、これからは「お姉さま」という未知の役割を四苦八苦しながら勤めていくのでしょうか。
 こんなに新刊が待ち遠しかったのも久しぶりなら、売ってるお店を探して本屋をはしごしたのも久しぶりです。最近は普通の本屋でコバルトあんまり扱ってないのね。結局、アニメイトで中高生に混ざって買ってきました。アニメイトなんて何年ぶりだろw