Revenge is Sweet

今日もネタバレなので、続きを読む からどうぞ。

「遊園地には車で行くわよ」
 そう言われたとき、祐巳は自分の耳を疑った。そもそも祥子さまが遊園地に行こうと言いだしたときも驚いたものだが、苦手な車で行こうと言い出すとは。しかし落ち着いて考えてみれば、柏木さんも一緒に行くんだし、柏木さんが保険として車で行くなら、一緒に乗っていってしまったほうが合理的ではある。
合理的ではあるのだ。だから祐巳も、はい、わかりました、と答えたのだが。
「なあに、祐巳さんったら、明日デートなのにつまらなそうな顔して。ふたりきりがよかったら、私たちご遠慮するわよ」
 相変わらず自分の百面相は直ってないらしい。由乃さんのツッコミに、祐巳はますます落ち込みつつも、みんなと一緒が嫌なわけではないことはきっちりと伝えた。
「ただね……柏木さんの車で行くことになっちゃって」
「ふーん」
 由乃さんの反応はあっさりしたものだった。考えてみれば由乃さんは柏木さんとほとんど接点もないので、感情的になるほどのマイナスイメージもないのかもしれない。
 結局そのまま、祥子さまとのデートへの期待と、柏木さんへの反発が混ざり合い、悶々と頭の中でぐるぐると駆け回って、祐巳はベッドの上で輾転と眠れぬ夜を過ごしたのであった。

「おはよーございます」
「おはよう、祐巳ちゃん。今日は降水確率0%だって。よかったな」
 お父さんが新聞をちょっとおろして、セリフとは裏腹に、あんまり面白くなさそうな顔で言った。娘がお姉さまとデートするだけなら、お父さんはきっとニコニコしているだろうけど、今回は柏木さんも一緒なのでちょっと面白くないのだ。おとーさん、安心していいよ。と言ってあげたいところだが、最近は柏木さんの同性愛疑惑も怪しくなってきているし、それを言ってしまうと今度は祐麒が同行を禁止されかねないので黙っていた。どうしても祐麒と一緒に遊園地に行きたいわけでもないけれど、これはリベンジなのだ。だから、あのときのメンバーである必要がある。
 なんて、昨日から何度も自分に言い聞かせたセリフを、また何回も繰り返しながら食べたせいで、朝ご飯の味はさっぱりわからなかった。

「おはようございます、お姉さま」
「おはよう、祐巳
 示し合わせたわけではないけれど、二人ともあの時と同じ服装だった。それだけで、祐巳の憂鬱なんて軽く吹き飛んでしまったのだから、祐巳の姉ばかも相当なものである。
「まあ今日は姉弟そろってお世話になるそうで……」
 なんてお母さんの挨拶を交わしているお姉さまと柏木さんの背中を眺めているうちに、祐巳はふとあることに気づいた。
 柏木さんのあのキザな赤い車はどこに泊めてあるんだろう。祐巳祐麒の二人をちょっと乗せるためだけに、わざわざ表通りのコインパーキングに入れるとも考えづらい。
 ちょっと先に停まってる黄色い車がそうだろうか。柏木さんのお家もお金持ちだから、車を買い換えるぐらいはわけないだろうけど。
 いつもこの辺では見かけない車なのに、その黄色い車になんとなく見覚えがある気がして、祐巳は必死に記憶の海をさらった。
「何をぼんやりしているの? 早く乗りなさい」
 お姉さまは黄色い車の横で、ドアノブに手をかけたまま祐巳を振り返った。あれ、お姉さま、そこは運転席のドアですよ。念のために中を覗くと、ハンドルは右に付いていて、お姉さまはそこにいままさに乗り込もうとしているところだ。
「えっ、えええええーっ?」
 呆然としながらも後部座席に乗り込んだ祐巳は、だから柏木さんの言葉もほとんど聞いていなかった。
「ごめんね、祐巳ちゃん。本当なら君がさっちゃんの隣にいたいだろうけど、まだ免許取り立てだからね。経験者が横にいたほうがいいと思ってさ」
「はあ」
 車が発進してもショックが抜けきらない祐巳に、祥子さまはバックミラー越しに話しかける。
「どう、驚いた?」
「ええ、すっごく」
「ふふふ、秘密で頑張った甲斐があったわ。試験勉強なんて生まれて始めてだったけど、祐巳の喜ぶ顔が見られると思ったら、ちっとも大変じゃなかったわよ」
 その一言だけで、祐巳のこころは今日の青空のようにぱぁっと晴れ上がった。だから、祥子さまの隣に柏木さんが座ってることも、許してあげることにした。そうして心が軽くなった瞬間、この車をどこで見たのか思い出した。そうだ、聖さまが乗ってたあの車にどことなく似ている。意識することなんてないのに、って思いながらも、祐巳はますます空高く舞い上がっていくのだった。





祥子さまの猛勉強

 勝手に予想SS。酔いやすい人でも、自分で運転すれば酔わないそうなので、きっと祥子さまもそのタイプです。
 瞳子を一緒にするかどうか迷って、プロット二つ作ってみたけど、やっぱリベンジは同じメンバー揃えないとね、ということでこんな形に。
 きっと遊園地では薔薇ファミリー+蔦子さんが待ってます。笙子ちゃんも一緒だといいなあ。