2007-09-01から1ヶ月間の記事一覧
「祐巳さんは祥子さまのコートを脱がした太陽みたいだなって、そう思ったんです」 「とすると、私たち三年生は北風か」 「そうなりますね」
「それを言ったら、瞳子こそ、祐巳さまのことお姉さまって呼んでないじゃない。ちゃんと呼ばないといけないんじゃないの?」
「そういえば、瞳子のことを呼び捨てにするようになったのって、マリア祭がきっかけだったよねぇ」
島津由乃は悩んでいた。令ちゃんを挟んでのロサ・フェティダこと鳥居江利子さまとの真剣勝負。その最後に、江利子さまはとんでもない難問を投げかけて来た。 イエスと答えてもノーと答えても、由乃にとっては敗北を意味する。今までの勝負は、すべてここに持…
三学期の始業式、あちこちで新年の挨拶をする声が聞こえるが、瞳子に話しかけて来る生徒はいない。ざわめきの中、ひとり廊下を歩く。孤独は寂しいが、いまはその寂しさがありがたい。
「はぁ」 これで今日、何度目のため息だろう。数えるのもばかばかしくて、それならいつまでも未練がましくそんなことをしてなければいいのに、瞳子は何度も机のなかのものを取り出しては、そこに書かれた文字を追ってしまうのだ。
「意外だわ、可南子さんからお誘いを受けるなんて」 「瞳子さんと仲直りしたいと思ったの」
「いやいや、まさか祥子が、あんな思い切ったことをするとはねえ」 聖が首を振りながらため息を吐いた。だが口もとに、こらえきれない笑みが浮かんでいる。 「祥子にも驚いたけど、あの子、祐巳ちゃんって言ったっけ? あの子もなかなか面白そうな人材」 江…
「つらいときには泣いてもいいのよ?」 祥子の答えは、果たして蓉子の予想通りのものであった。 「いいえ、大丈夫ですわ、お姉さま」
「知ってた、ですってえ!」 由乃は菜々にずいっと詰め寄った。 「それじゃあ、なんで知らないフリなんかしたのよ!」
「シズカ、午後の授業は取ってるの?」 「ええ、でもこの手紙を出してくるから、先に教室に行ってて」 静は肩越しにエアメールをひらひらさせながら、リズミカルに階段を駆け下りた。