薔薇の館の三悪人

「いやいや、まさか祥子が、あんな思い切ったことをするとはねえ」
 聖が首を振りながらため息を吐いた。だが口もとに、こらえきれない笑みが浮かんでいる。
「祥子にも驚いたけど、あの子、祐巳ちゃんって言ったっけ? あの子もなかなか面白そうな人材」
 江利子の方は、もはや隠そうともせずにやにや笑いを貼り付けたままだ。なるほど、江利子祐巳ちゃんには合格点を付けたと言うことか。


「まったく、スタートからいきなりアクシデントだらけだというのに、あなたたちは楽しそうね」
 蓉子はわざとらしくため息をついてみせた。ふたりが暴走したら、残る一人はブレーキをかけるしかないではないか。損な性分とよく言われるが、この二人と付き合っている限りでは、それを損だと思ったことはない。一歩引いたところにいたほうが、全体像はよく見えるものだ。
「蓉子こそ、目が笑ってるよ?」
 ぐっと顔を寄せてのぞき込んでくる聖を押し返す。
「とにかく、聖のアドリブのおかげで助かったわ。あれはさすがに想定していなかったものね」
「いやいや、あれは祐巳ちゃんが祥子の申し出を断ってくれた事が大きいね」
「ほんと、まさかあそこで断るとは、思っても見なかった」
「二人とも、わたしのかわいい妹が大変な目にあったんだから、少しは同情とか遠慮ってものはないの?」
「そういう蓉子だって、祐巳ちゃんが断ってくれて、内心ほっとしてるくせに」
 言いたい放題言って、聖は優雅に紅茶のカップを持ち上げた。まったくこの親友は、いいかげんなようでいて鋭い。表情を観察するに、江利子の方も察していたのだろう。驚いた様子は見せなかった。
「そうね。あそこであのままイエスと答えるような子だったら、祥子とはいずれ上手くいかずに破局するでしょうね」
「あるいはあの時点で祥子に幻滅してノーと答えていたかも」
 蓉子は椅子に戻って、すっかり冷たくなった紅茶の残りに口を付けた。
「祥子に心酔はしているけど、隠された本性を見ても動揺しない。あの短い時間で私たちの関係を把握するぐらいに勘が鋭い。祥子のために三年の私たちに意見するだけの度胸がある。そして祥子の申し出を断るぐらいプライドが高い。そしてなんといっても、百面相が見ていて面白い」
 聖が指折り祐巳ちゃんの利点を数える、最後の一言に、蓉子は思わず苦笑した。
「でも蓉子が一番気に入ってるのは、祥子のことをすっごく好きなところでしょ?」
「当然よ。かわいい妹を託す相手なんだもの。それは絶対に必要な条件」
 さてどうなることか。うまく事を運ぶことが出来るかどうか、不安がないわけではないが、サイが投げられてしまった以上は、心配する暇よりも、上手に動くことを心がけるしかない。それになんといっても、あの一年生には、どこか人をひきつける晴朗さがある。だから、期待してもいいのではないか。棘によって傷つき、血を流しながらも抱きしめてくれる人を、薔薇はずっと待ち焦がれているのだから。

薔薇の棘

 薔薇って棘があるから余計に美しく神秘的に見える気がします。美しいものを手折るために血を流すイメージって、お耽美ですね。マゾですか。はい、マゾです。
 話は変わって、薔薇の刺といえば、新刊のタイトル「薔薇の花かんむり」 いばらの冠といえば犠牲に捧げられたキリストのシンボルなわけです。つまりこれは、主要登場人物が何かの犠牲になることを暗示しているんだよ! ナ、ナンダッテー(AA略 という話をしたら、電話口で怒り出した人がいたので、その人にしか言ってません。なのでここに吐きだしておこうと思います。
 なんて、素直に考えればロザリオのことですねw 聖母マリアの夕べの祈りにもそんなような歌詞があったかも……幼稚園時代の記憶なのでとても曖昧ですが。そういえば日本のカトリック教会は、マリみてのジャケットで聖歌集を売り出すといいと思うよ。なんなら声優に歌わせてだね(以下略